No.0056:リセールバリュー 〜 再点火
2018.07.31 

 先日の新聞に最近のメーカーは、利用後の売却までを意識した商品開発を進めていて「売っておしまい」の時代から「売ってから始まる」時代になってきているようなことが述べられていました。皆さんもご存じのようにメルカリやヤフオクに代表される中古市場が活況で、僕たちの若い頃と違い、部屋が多くの洋服に占拠されるような事はなくて、今の若い人達は 少し着て飽きたらネットで売却、そうして得たお金で、新しい中古の服を購入といった頻繁な、出ては入って、が繰り返されているようです。プロ野球に比べ圧倒的に選手の移籍の多いJリーグのように。
 
 ネットで簡単に気軽に情報をやりとりしながら売買する仕組が整備されたことで、 消費者はリセールバリュー(再販価値)を意識して買い物をするようになってきているようです。ただ私は個性を伴うモノの売買についての、このような現象に少し違和感を覚えます。例えば洋服を選ぶ時は「自分が気に入る」が最も優先する価値で「他者が気に入る」は自分にとってはどうでも良いからです。こういうことが行き過ぎると、 人と同じであることが大切みたいなことで、客観は育つかもしれませんが主観(個性)は失われるように思います。常に同じアクセント、平坦なイントネーションの発言を繰り返すアマゾンの人工知能であるアレクサの感情を欠いた、乾いた、正確性のように。
 
 リセールバリューとは少しズレますが、それと似た「古い環境から新しい環境に移って価値を増した」観点で、スポーツ選手として強烈に記憶に残っているのが、成績不振やコーチとの確執により巨人から中日に放出された西本聖投手です。古巣の巨人を見返すことをエネルギーに翌年には20勝を上げ最多勝を獲得してしまいました。特に巨人戦での凄まじい気迫で打者に向かっていく姿勢は感動的でさえありました。レコード会社EMIに素行の悪さによって契約を打ち切られたセックス・ピストルズがEMIを揶揄した曲「拝啓EMI殿」を含むアルバム「勝手にしやがれ」がゴールドディスクに輝くことで、EMIを後悔させた?ように。
 

 政府の人生100年時代構想会議のメンバであるリンダグラッドン氏の著書「LIFE SHIFT-100年時代の人生戦略」の中で、現在の30才の50%が99才まで生きると予測されています。そんな長寿化や少子化による年金財源不足によって、より高齢で働くことへの社会的要請の高まりが確実視されています。またAIなどの情報化の進展によって自分の持っているスキル陳腐化の懸念が高まっています。このような状況の中、 自分の出来ることの変更(追加)が重要で、それを実現するための学び直し(リカレント)が注目されています。そうすることで自らのリセールバリューを高め、再点火する、そんなしんどいけども、考え方によってはワクワクな社会的変化の過渡期にあるのが今のように思います。40年前のワーゲンがレストアによって蘇り、新しい車にない魅力を解き放つように。
 
 私は服や靴は可能な限り長く愛用していたい方です。例えば10年を超える靴は3足ありますし、学生の頃から着ている20年を超えるスイングトップもまだ健在です。その一方、考え方はどんどん変化していきたいと考えています。昨日まで自分の知り得なかったことを知っていたく感動し、それによって影響を受け、主観より客観に変容を繰り返すことが、ラーメンの次にくる、人生の楽しみだと考えています。