No.0068:結節点〜1つよりも幾つかの組合せで
2019.07.30

 結節点とは「交わるところ」という意味です。例えば複数の道路が交わるインターチェンジ、複数の路線が交わるターミナル駅など、何かと便利で、何かいいことありそうな、素敵な「点」のイメージがあります。暖流である黒潮と寒流である親潮が交わる海域が世界有数の好漁場であるように。このように結節点をいくつかの素敵な才能、素養が掛け合わされることで得られる相乗効果(シナジー)の発生するポイントに例えて綴っていきます。
 
 20年ほど前、人件費の安い中国やアジアといった海外でアプリを作るために、英語とアプリの設計ができる人がブリッジSE(橋渡しのコンピュータ技術者)と呼ばれて随分と良い報酬をもらっていました。語学とアプリ開発の結節点に立ち、日本のお客の要求をとりまとめ、それを海外のエンジニアに英語で「こう作ってください」をうまく指示できる人なんて絶滅危惧種のトキみたいに、めったにいませんでしたので。今では日本と海外のエンジニアの報酬差が随分と縮まった、下手すると海外の方が高くつく場合もあり、 今後はエンジニアというよりもお客様としてのお付き合いにウエイトが移っていくと私は予想しています。かつて安い労働力により世界の工場ともてはやされていた中国が所得の増加に伴い市場として改めて注目されているように。ですので相変わらず、英語の重要性は衰えることはないと考えています。
 
 似たような話としてここ数年、有望と言われてきたAI技術者やデーターサイエンティストといった職種に求められることが変わってきているという話です。データをこねくり回したり、相関を見つけたりは結構だけど、それをどう人の幸福に結び付けられるか?がより重要になってきています。あまり技術の深い難しい部分は知っていなくてもよくて、どうしてかというと、そこはもう人が関わらなくても仕組みが、コンピュータがよくわからないけど、黒い箱の中で、よろしくやってくれますので。スマホを利用するために、その中身がどうなっているか知る必要が全くないように。もちろん黒い箱の中を知っている人も重要であり続けますが、 黒い箱を活用して日常の困った、こうありたい、に適応させて、素敵にする、少しの技術と、人の幸福追求に使命感を持った人の価値が認められ始めたことに私はワクワクしています。というのは黒い箱の中を理解しようとしましたが難しい数学の数式を前に私はAIを諦めていましたので。 
 
 工場の流れ作業のベルトコンベアで組立作業に携わっている人は、各々がごく限られた部分を担当、例えばスマホの組立であれば、音量調節ボタンの取り付けを一日中、ひたすら、ひたすら繰り返している、そうすることで「慣れ」による効率性を最大化しているイメージがあります。しかし感情のある人間がひたすら同じ作業を繰り返していますとやる気が減退してしまう問題があります。さらに「人と同じは嫌だ、自分らしさを大切にしたい」みたいな利用者ニーズの多様化がこのところもの凄い勢いで進んでいます。そんな中、工場では多くの種類の製品を少しづつ作らないといけない、だから生産現場での流れ作業の内容変更が頻繁に頻繁に生じることになります。このような状況下で 「しかできない」はとても効率が悪くなります。ひょっとしたら、今日の仕事はないかもしれませんし、逆に徹夜しないと終わらないかもしれません。ですので「いろいろできる」多能工へのシフトによる変更への柔軟性が求められています。 
 
 最近、ライフネット生命保険の創業者である出口治明さんの著書「知略を養う戦争と外交の世界史」のオーディオブックを聞きました。 仕事や人生で困った時に、同じような状況での「困った」に対し歴史の先人は悩み、考えた挙句に判断、実行し、その結果、成功したり、その逆に失敗したり、といったモデルを残してくれた、それを参考にすることは大いに意義がある、みたいなことが述べられています。例えばアヘン戦争で清(中国)はイギリスの麻薬を拒否した結果、戦争をふっかけられた挙句、負けて、イギリスに頭が上がらなくなってしまった、その惨状を日本は目の当たりにして、清のようになってはいけないといった教訓(不安)が明治後の富国強兵による西欧に屈しない日本を作ったそうです。自分の得意を活かして何かを始めた時に、他者から横柄なふるまいや理不尽な対応によって、ブレーキをかけられてしまった場合、アヘン戦争の史実に倣って相手を弱いと見ると人は嫌がらせをしたり、利用したり、奪おうとする、 (そうでない人が大半ではありますが・・・)だから自分が舐められないために、知識が、毅然が、闘争(逃走)が、必要だ、といったように、一緒に歴史が横にいてくれると、冷静に少し他人事みたいに対処できます。 
 
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。
オットー・フォン・ビスマルク
 
 以上のように幾つかの素敵の組合せは、各々の足し算で得られる以上の素敵を私たちにもたらします。さらにその 一つ一つの素敵の水準もしくは希少性が高いとさらに他者との差別化(競争力)につながります。またそのそれぞれの素敵の距離が遠く離れているほど掛け合わせた時のシナジーは大きいように思います。唯一無二の組合せをもつ人として。スティーブ・ジョブズの持つアートとテクノロジーの両側面が、デザイン的にも、使い勝手も申し分ないiPhoneを作り出したように。私もITの仕事をしていますが、人への洞察を最も大切に考えた上で、道具としてのITをうまく人のこうありたいに適応していきたいと思っています。
多様なメロディを束ねる結節点を持つゆらゆら帝国